「はい、それはもう、結構騒がれてましたねー。特にうちの社では、編集長が随分前からいろいろ調べ回ってましてね。天地信仰や復古派については、社員も敏感になってました」
「具体的な話は? 復古派が何をしようとしてるとか、どういう奴らの集まりだとか……」
「そ、それはぁ……編集長って、わりと秘密主義的なところあるんで、裏が取れるまで話してくれないんですよ。ここしばらく社にも顔を出さないで、なんかやってましたし……」
「ねえねえ、テンさん。その編集長ってどんな人なんです? ずーっと聞きたかったんですけど、聞く機会なくて。そもそも、編集長ってどんな仕事するの? 取材とかするの?」
アルコが目を輝かせてテンの服の裾を引いてくる。
(どんな人って言われても……変わり者という名の変人……って、同じ意味か)
胸中で一人突っ込みをかましつつ、テンはテーブル中央に積まれたパンを手に取る。
「バイロン社の場合、会社の規模が小さいんで、編集長って言っても他の記者とやることはあんまり変わんないんですよ。取材にも行くし、編集や校閲、交渉までするの。社員全員がそんな感じで、編集長が不在の時は代わりに誰かが監修しちゃうのよね。ほら、うちの会社、週刊バイロン以外めったに出さないし。わりとサークルみたいな感じで」
「じゃあ、特に偉い人ってわけでもないんですか?」
「うーん……でもね、尊敬はされてるよ。だってすごい人なんだもん!」
テンは危うくパンを握り潰すくらい力を込めて、ぱっと顔を輝かせる。
「編集長はね、かの有名なバイロン旋風の記事を書いた敏腕記者なのですよ!」
「バイロン旋風って確か……エイオン失踪について問い質した記事でしたね」
「そうそう。それでー、現在の社長のお孫さんでね。すごい記者でね。他の雑誌社から編集長に憧れて移ってきた人も結構いたりして……」
「まあ、この際そいつが何者かは置いといて……テンはその編集長に命じられて《暗黒堂》に依頼に来た……これで間違いないんだよな?」
割って入ったゼロに視線を戻すと、彼はアルコの前に並んでいたからあげの山から一つを頬張り、なんとも気のない様子でこちらを見ていた。一瞬ぽかんとしたが、それが周囲に注目されない術なのだろうな、と思い至る。
「あ、はい……鍛え直してもらえ、とか言われました」
「……ふむ。問題はここからだ。俺達はテンの依頼をしっかり受けて、ユピテルくんだりまでやって来た。そこに、待ち構えたかのようにオフェリアが来ていて、その親衛隊には俺の事情を知っているフリード先輩にキーノがいた。マルチェラっつーのはテンの幼なじみだったか……彼女が志願したか、オフェリアが意図的に選んだかわからないが……とにかく、出来すぎた人員だと思わねぇ?」
「ええっと……つまり、初めからわたしとゼロさんがユピテルに来るってことを、王国軍側が知っていた……ということですか?」
「そーいうこと。それに、オフェリアの護衛を引き受けてくれっつーのも、胡散臭いな」
ゼロの言葉にパンをちぎる手が止まる。アルコも、豚の角煮を口に突っ込んだまま噛むことを止めた。ゼロ一人が平然と野菜スティックをぱりぽりとかじっている。
「オフェリアは話の途中、ご丁寧に復古派について語っていたな。あの女がそういう態度取る時は、間違いなく『復古派』ってものがこの街に存在してるってことだ。そいつらから自分を守ってくれ、と奴は言った。わざわざ俺を呼びつけて。奴らは俺が確実にユピテルにいるのを知っていて、なおかつ俺とコンタクトを取りたがっていた。これは確かだ」
「んんんんんん? ちょっと、オーナー。もっと優しく、ボクにわかる言葉で!」
ゼロは饒舌に動いていた口をぐっと閉じ、初めて考えるように視線を上向かせる。
「もしかしたら……本当に復古派に狙われてるのは、俺かもしんねーってこと」
「……………は?」
アルコはぽかんと締まりなく口を開けたが、さすがにテンは状況が飲み込めてきた。
ゼロはパムカルにいた時から、誰かに探られていたという。それがユピテルの天地信仰・復古派だというなら、話が見えてこないだろうか。
いや――
「でも、それってちょっとおかしくないですか? 確かに状況から見て、オフェリア様よりゼロさんのほうが、復古派……というか、この場合ゼロさんを探っていたという『誰か』に狙われている確率は高いんだろうなって思います。でも、もし本当にその『誰か』がユピテルにいる復古派だとしたら、また辻褄が合わなくなってきませんか?」
「そうだ。……それがどうも釈然としねぇ」
「ちょ、ちょっとちょっと! ボクを無視して話を進めないでよぉ!」
アルコが視線を交わし合うテンとゼロの間に手を差し入れて気を引いてくる。
テンは唇に手を当てて、自分でも物事を整理するために言葉に表していった。